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住職ノートnote

私は死ねる…


明治の小説家 双葉亭四迷(1864~1909)は、西洋の小説を翻訳していた時、行き詰まった言葉が あったといいます。

それは I love you でした。

直訳すれば、もちろん「私は、あなたを愛しています」です。さしずめ、明治時代なら「我、汝を愛す」なんでしょうが、双葉亭四迷は、これでは納得しませんでした。

だって、日本人は、西洋人が簡単に(?)I love you と言うように、「愛している」なんて、口にしませんもの。まして明治時代の日本男児にとっては、一生に一度(ちょっと大げさ?)言うかどうかの重たい言葉だったと思います。
だから、双葉亭四迷は悩んだのです。

そして、その挙句の訳語は、私は、死ねる でした。
「死ねる」というのは、いのち・全存在を賭けるということでしょう。さらに、それは「あなたのために」とか「私のために」とはいいません。「ために」という理由付けはありません。相田みつをさんの詩に

人の為 と書いて いつわり と読むんだねえ

というのがあります。「愛するのに理由はいらない。理由をつけたら偽になる。愛すること自体に意味がある」ということでしょうか。

「あなたと私」とか「おまえと俺」などと、二人を分けることなく、「死ねる」と全存在を重ねている…。そんな名訳だと思います。

はるか20年ほど前、私は学生時代 にこの訳語を聞いて、私は感動しました。「これこそが 翻訳だ」 と。

今、南無阿弥陀仏という仏さまからのメッセージを、ありきたりの教科書的な訳ではなく、「私は 死ねる」というような言葉で言い替えられたら と思います。